楊貴妃の美貌と杏子の潤い力
杏子は、甘酸っぱい風味とみずみずしい果肉が特徴の果物で、初夏から夏に出回ります。薬膳では「杏仁(きょうにん)」と呼ばれる杏の種も重要な食材として使われ、古くから渇きを癒し、美容に役立つとされてきました。
潤いを与える「潤肺」の働き
杏子が持つ「潤肺(じゅんぱい)」の作用は、薬膳の重要な概念のひとつです。「肺」は薬膳において「乾燥に弱い」とされており、空気の乾燥や寒さの影響で機能が低下しやすくなります。肺が乾燥すると、乾いた咳、乾燥肌、便秘などの症状が現れやすくなります。
杏子は、潤いを産みだす陰液を補い、身体の中に潤いを巡らせ、肺を乾燥から守り、肌や喉の粘膜の不調を和らげます。
楊貴妃の美肌を支えた宮廷の杏子
楊貴妃が暮らした唐代は、薬膳や美容に対する意識が非常に高かった時代でした。この時期、杏子は単なる食材にとどまらず、美容や健康維持のために利用されていました。
楊貴妃の美貌を支えた要因の一つに、宮廷で提供されていた薬膳や美容食があるとされています。杏子の持つ美肌効果、潤肺作用、そして滋陰の効果は、楊貴妃の健康や美しさを保つために重要な役割を果たしていたと考えられています。実際、楊貴妃は杏子を日常的に摂取していたと伝えられており、乾燥から肌を守り、健康的な外見を保つために効果的だったとされています。
伝説の医師と杏林
「杏林(きょうりん)」という言葉は、古代中国における杏子と医療との深い関わりから生まれました。杏林は、主に杏の木に由来していますが、具体的には「杏の木の下で治療を施す医師」という意味が込められています。
漢方医学の基礎となる書物を残した「張仲景」
「杏林」という言葉の起源は、古代中国の伝説的な医師であり神仙(不老不死の存在)としても知られる人物に由来します。また漢方医学の基礎となる書物『傷寒論』や『金匱要略』を残した医師、張仲景(ちょうちゅうけい)との関わりもあります。
張仲景は杏の木の下で診療を行ったと伝えられており、そのため杏子は健康や治療の象徴とされるようになりました。この出来事をきっかけに、杏は医師や医学を象徴する存在となり、中国では古くから「杏林(きょうりん)」という言葉が医師の代名詞として使われるようになりました。
このように、杏子は健康や養生を象徴する存在として長い間尊ばれてきました。